せぼねの骨折を治療しているドクターの独り言

VOL3. 予防が重要なんだけどなあ・・・

近畿大学奈良病院 整形外科・リウマチ科
教授 戸川大輔

病院に来る患者さんを診ていつも思うことは、『本当に悪くなってからしか来ないんだなあ・・・』ということです。でも考えてみれば、患者さんの気持ちも分かります。虫歯も痛くなってから掛かる人のほうが多いですよね・・・困って来院される患者さんを診ると多くは、『とうとうどうにもならなくなったので来ました・・・』と言われます。

骨粗鬆症は本来、なってから治す病気ではなく、ならないようにすべき病気です。なってから治すのは、いくら薬が良くなったとはいえ、大変難しいことです。同様に、せぼねの骨折も同じです。骨粗鬆症を背景としたせぼねの骨折は、骨折するはずのない軽微な動作でも起こることがあり、痛みも軽いことがあります。いわゆる‘いつのまにか骨折’というやつですね。骨折していることに気が付かなければ病院に行くこともないし、病院に行かなければ、診断されることもありません。ですから当然治療を受けることがありませんので、骨折が治らないままになったり、変形してくっついたりします。そうなると背中がすごく曲がったり、神経を障害して脚がしびれたりということが起こることもあります。せぼねの骨折も受傷したら、ほかの骨折と同様に変形しないように治療すべきです。

それでは、骨粗鬆症やせぼねの骨折にならないようにするにはどうしたらいいのでしょうか? そう、やっぱり予防なんです。悪くなる前に自分のせぼねがどんな状態なのかチェックしなくてはいけません。私たち専門家も、このようなせぼねの健康についてもっとお知らせするべきでした。学校の授業で子供のころから教えるとか、健康講座を開くとか・・・健康に興味がないひとにも、なんとか聞いてもらう機会を設けるとか・・・

最近、せぼねの医者(脊椎外科医)の集まりでは、高齢者のせぼねの変形の治療に注目が集まっています。これは60~70歳代の女性を中心に起こりやすい病気です。せぼねがねじり曲がる病気(変性側弯症)が起こったり、せぼねの骨折後に著しく体が前に倒れたりすると、著しく健康を損ねるおそれがあります。長く姿勢を保持できない(長く立っていたり、座っていたりすると腰が痛くなってしまい、横にならざるを得ない)ことも大変困りますし、神経の通り道が障害されると脚にも痛みやしびれが出ます。そして・・・見かけ(容姿)が悪くなると嫌ですよね。痛みだけではなく、曲がった背中を人に見られたり、指摘されたりするのは誰しも嫌なものです。そうなると着るものは体を隠すようなダボッとしたものになって、おしゃれも制限されます。外出もしなくなり、家にこもりがちになります。明らかに健康的とは言えません。そう、みなさんお気づきですね・・・なってからでは対処が難しいんです。

障害を最小限にとどめるためには、早めの対応が重要です。心配になったら、早めに医療機関を受診し、定期的にチェックしてもらいましょうね。予防が何より大切です。


 

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